「なぜ金沢に移住したのか」とよく聞かれる。移住から3年経った今でも聞かれることが多いので、一度きちんと振り返っておきたい。一言で説明するのは難しいが、大きく3つの理由があった。この記事では、その理由と、比較検討した他の候補地、移住前の下見で実際にやってよかったことをまとめておく。

理由1:生活コストと裁量のバランス

東京での生活は便利だが、家賃・物価ともに高い。同じ収入でも、地方に移ることで生活コストを大きく下げられれば、その分だけFIREまでの距離が縮まる。金沢は北陸新幹線「かがやき」で東京まで最速2時間28分とアクセスが悪くなく、都市機能もある程度揃っているため、コストと利便性のバランスが良いと判断した。フルリモートワークへの切り替えと合わせて検討したことで、この判断はより現実的なものになった。

理由2:街のコンパクトさ

金沢は車がなくても生活が成立するサイズ感の街だ。中心部から自転車や徒歩で移動できる範囲に、仕事・買い物・自然が収まっている。地方移住というと車社会を想像しがちだが、コンパクトシティ型の街を選べば、東京にいた頃の生活リズムに近い形で移住できる。実際には車を1台保持しているが、日常の移動は徒歩・自転車が中心で、雪の季節や遠出のときだけ車を使う頻度感になっている。

理由3:伝統と新しさが同居する文化

金沢は茶屋街や兼六園などの伝統的な街並みが残る一方、新幹線開業以降は新しい店やコワーキングスペースも増えている。「古いものを大事にしながら、新しいことを試せる」空気感が、ブログ運営のような新しい挑戦をする自分の状況とも合っていた。実際に住んでみると、この空気感は想像していた以上に暮らしの満足度に効いてくると感じている。

他の移住候補地との比較検討

移住先を金沢に絞るまでに、実は他の候補地も検討していた。候補に挙がっていたのは、福岡・札幌・静岡といった地方主要都市だ。それぞれ生活コストの低さや都市機能の充実度という点では条件を満たしていたが、最終的に金沢を選んだ決め手は「東京へのアクセス」と「街のサイズ感」の掛け合わせだった。

福岡は都市機能・生活コストともに申し分ないが、東京への移動が飛行機頼みになり、フルリモートとはいえ月1回程度は本社への出社機会がある働き方だったため、移動コストと時間の負担が大きいと判断した。札幌は自然環境の魅力が大きい一方、冬の積雪量が金沢よりさらに多く、車を持たない生活スタイルとの相性に不安があった。静岡は東京へのアクセスは申し分なかったが、生活コストの下落幅が想定より小さく、FIREの目標達成スピードへの寄与が限定的だと試算した。

最終的に金沢を選んだのは、新幹線で東京まで最速2時間28分というアクセスの良さと、車がなくても生活が成立するコンパクトさ、そして家賃差による生活コストの下落幅(20万円→8万円)という3つの条件を同時に満たす候補地が他になかったからだ。1つの魅力だけで選ぶのではなく、複数の条件をスコアリングして比較したことが、結果的に納得感のある意思決定につながったと感じている。

移住を決めるまでの具体的なプロセス

情報収集を始めてから実際に移住を決断するまで、およそ半年ほどの期間をかけた。最初の2〜3ヶ月は候補地のリサーチと家賃相場・生活コストの試算、その後の2ヶ月で複数回の下見、最後の1ヶ月で物件探しと引っ越し準備という流れだ。焦って決めなかったことが、結果的に移住後のミスマッチを減らせた要因だと思っている。

フルリモートワークへの切り替えについても、移住のタイミングと合わせて職場と交渉した。会社によっては移住とリモートワークの両立に難色を示すケースもあると聞くが、自分の場合は転職のタイミングと移住の意思決定を重ねることで、フルリモート前提の職場を選ぶという形で解決した。この転職の軸の変え方については、別記事でも詳しく書いている

下見で実際にやってよかったこと

  • 平日と休日、両方の街の雰囲気を見に行った
  • 実際に住みたいエリアで1泊し、朝の通勤・買い物動線を歩いた
  • 不動産屋だけでなく、地元のカフェやコワーキングスペースで働く人に話を聞いた

移住前に立てた「合格ライン」

候補地を比較する際、感覚だけで判断しないよう、事前に「合格ライン」を数値化していた。具体的には、①東京への移動時間が片道3時間以内、②家賃が現在の半分以下、③車なしで生活が成立するか、の3項目をそれぞれ点数化し、候補地ごとに比較した。金沢はこの3項目すべてで基準を満たした唯一の候補地だった。

こうした基準を事前に決めておくメリットは、下見の最中に「なんとなく雰囲気がいいから」という感覚だけで意思決定してしまうのを防げることだ。実際、下見中は観光地としての魅力に引っ張られて判断がぶれそうになる瞬間が何度かあったが、事前に立てた合格ラインに立ち返ることで、生活者としての視点を保つことができた。

実際に住んでから感じたギャップ

下見の段階では気づかなかったが、実際に住んでみると季節ごとの街の表情がまったく違うことに驚いた。春や秋の観光シーズンに訪れた印象と、梅雨時期や真冬の生活実感は別物と言っていい。可能であれば、天候の異なる時期に複数回下見をすることを強くおすすめしたい。1回の下見だけで「合う・合わない」を判断するのは、想像以上にリスクが大きい。

また、下見の段階では「観光客として快適かどうか」を無意識に基準にしてしまいがちだ。生活者としての目線に切り替えるために、スーパーの品揃えやゴミ出しのルール、病院までの距離といった地味な項目もチェックリストに加えておくとよい。特にゴミの分別ルールは自治体によって差が大きく、知らずに住み始めると近隣トラブルにつながりやすいため、事前確認をおすすめしたい。

結果として、東京時代に家賃20万円だった住居費は、金沢では8万円まで下がった。差額の12万円は、そのまま毎月の投資に回せる金額になっている。この家賃差の内訳や物件選びの具体的な条件は、次の記事で詳しく書く。生活コストが下がったことで、資産形成のペースに直接効いてくるという実感を持てたのは、移住を決めた3つの理由の中でも特に大きかった。

移住の下見は「観光」ではなく「生活のシミュレーション」として設計すると、住んでからのギャップが大きく減る。次回は、実際の家賃相場と物件選びで失敗した点・良かった点を数字ベースで書く。

今、あらためて振り返って思うこと

移住から3年が経った今、当時の意思決定を振り返ると、候補地を複数比較し、合格ラインを事前に決めておいたことが結果的に一番効いたと感じている。移住は「その場の勢い」で語られがちだが、実際には条件を数値化して比較検討する、転職や資産運用と同じような意思決定プロセスを経ている。

一方で、下見だけでは分からなかった季節ごとのギャップや、ゴミ出しルールのような生活の細部については、正直「住んでみないと分からない」部分も一定数あった。完璧に準備してから移住するのではなく、ある程度の不確実性を許容した上で決断し、住み始めてから微調整していくという姿勢も必要だったと思う。これから移住を検討する人にも、情報収集に時間をかけすぎて決断が先延ばしになるより、合格ラインを決めた上である程度のところで踏み切ることをおすすめしたい。