資産形成の話をすると、多くの場合「いくら貯めるか」「何%で運用するか」という数字の議論から入る。もちろんそれは大事な軸だが、それだけでは辿り着けないものがある。何歳で、どれくらいの裁量を持って働きたいのか。その問いを先に立てないまま資産計画だけを積み上げると、途中で目的を見失いやすい。
自分の場合、これまで4回の転職を経験する中で「裁量の大きさ」と「働く場所の自由度」が、年収以上に満足度を左右することに気づいた。今回はその2軸を優先順位の起点に置いて、FIREからキャリアを逆算する考え方を整理してみる。IT業界でのキャリアという前提はあるが、業界を問わず応用できる考え方だと思っている。
資産形成とキャリアは別の設計図ではない
FIREを目指す議論は「資産形成」と「キャリア」を別々のトラックとして語られがちだ。しかし実際には、キャリアの選び方そのものが資産形成のスピードと質を大きく左右する。転職のたびに年収だけを見て動くと、裁量や働き方の自由度が犠牲になり、結果として「経済的自由」を得たあとに何をしたいかが曖昧になる。
だからこそ、キャリアの意思決定は「今の年収」だけでなく「何歳でどれくらいの裁量を持ちたいか」という将来の状態から逆算して評価する必要がある。会社を辞める・辞めないの二択で考えるのではなく、裁量の量を少しずつ増やしていく、というグラデーションで捉えたほうが現実的だ。
優先軸を「裁量」と「場所」に絞る
裁量とは、意思決定の範囲そのものだ。担当領域の中でどこまで自分で決められるか、誰の承認を経ずに動けるか。場所とは、リモートワークの可否や居住地の自由度を指す。この2軸を優先すると、必然的に「何をやるか」より「どう働けるか」で職場を選ぶ判断軸が明確になる。
- 裁量:担当領域における意思決定権の広さ
- 場所:リモート可否・居住地の自由度
- 年収:上記2軸を満たした上での調整変数
転職4回、それぞれで変わった優先軸
振り返ると、4回の転職はそれぞれ違う理由で動いている。1社目から2社目への転職は、正直に言えば年収を上げることが最優先だった。当時はまだFIREという概念も意識しておらず、目の前の給与テーブルを比較して決めていた。
2社目から3社目にかけては、事業のフェーズや裁量の大きさを重視するようになった。大きな組織の中で歯車として動くより、意思決定に関われるポジションのほうが自分には合っていると気づいたのがこの時期だ。ただしこの転職では、働く場所の自由度についてはまだ優先順位が低く、出社前提の職場を選んでいる。
3社目から4社目(現職)への転職で、初めて「場所」を明確な軸に加えた。フルリモートで働けるかどうかを応募条件の必須項目にし、面接でも早い段階で確認するようにした。結果として年収水準は横ばい〜微減の打診もあったが、裁量とリモート可否を満たす条件を優先して現職を選んでいる。
- 1回目の転職:年収優先。FIREという発想自体がまだなかった
- 2回目の転職:裁量を意識し始める。ただし働く場所はまだ二の次
- 3回目の転職(現職):裁量+フルリモートを必須条件にする
こうして振り返ると、転職の軸は一度に完成したわけではなく、経験を重ねるごとに解像度が上がっていったことが分かる。最初から「裁量と場所を優先する」という結論に辿り着けていたわけではなく、遠回りをしながら学んだ部分が大きい。
「裁量の大きさ」を面接でどう見極めるか
裁量は求人票の文言だけでは判断しづらい。「裁量権あり」と書かれていても、実際には承認プロセスが多層的で、現場の意思決定にほとんど関われないケースも珍しくない。自分が面接で意識しているのは、「直近の意思決定で、あなた個人の判断で決めたことを1つ教えてください」という質問だ。この質問に対して、具体的な事例がすぐ出てくるかどうかで、組織の実態がある程度見える。
あわせて、上長との1on1の頻度や、承認が必要な意思決定の範囲(予算・人員・スケジュール等)についても具体的に聞くようにしている。抽象的な「裁量あります」という回答しか返ってこない場合は、実際の裁量は限定的だと判断し、優先度を下げている。
金沢に移住してから見えてきたこと
実際に金沢へ移住し、フルリモートの働き方に切り替えてから3年が経つ。東京にいた頃と比べて生活コストは下がり、通勤時間はほぼゼロになった。その分、仕事の裁量を広げるための学習や、このブログの運営に時間を使えるようになった。数字だけ見れば地味な変化だが、「何にお金と時間を使うかを自分で決められている」という感覚は、想像していた以上に大きい。
現時点の世帯年収は1,650万円、世帯資産は5,800万円台。FIREの目標ラインを6,000万円に置いているので、残り200万円強のところまで来ている計算になる。この数字自体は今後のポートフォリオ記事で詳しく扱うが、「あと一息」という距離感が、日々の支出判断にも良い緊張感を与えている。
興味深いのは、裁量と場所を優先軸にした転職が、結果として資産形成のスピードを落としていないという点だ。年収だけを見れば横ばいの時期もあったが、生活コストが下がったこと、そして仕事の満足度が上がって無駄な浪費(ストレス発散のための出費)が減ったことが、実質的な貯蓄率の改善につながっている。年収の額面だけを見て転職の是非を判断していたら、この効果には気づけなかったと思う。
FIRE達成後、実際にどう働きたいか
FIREというと「働かなくてよくなる」というイメージが先行しがちだが、自分の理想は完全なリタイアではない。資産収入で生活費の大部分をまかなえる状態を作った上で、裁量の大きい範囲だけを選んで働き続ける、いわゆるSide FIREに近い形を想定している。
理由は単純で、フルリモート・裁量重視の働き方に切り替えてから、仕事そのもののストレスが大きく下がったからだ。「働かない」ことを目的にするのではなく、「条件を選べる状態を作る」ことが目的だと考えるようになった。このブログの運営も、将来的にはその「裁量の一部」を担う収入源に育てたいと考えている。
FIRE目標額の6,000万円に到達したあとも、金沢での暮らしと今の働き方の延長線上で、必要な分だけ働いて必要な分だけ稼ぐ、という設計に移行していくのが現実的な着地点だと考えている。
次回以降に書きたいこと
次回以降は、実際の支出設計やポートフォリオの記事と合わせて、キャリア面の意思決定を数字ベースでどう検証していくかを書いていく予定。転職の軸を変えたことで、実際に世帯年収や資産形成のペースがどう変化したのかも、具体的な数字とあわせて整理していきたい。
同じように「年収以外の軸で転職を考えたい」という人にとって、この記事が判断材料の一つになれば嬉しい。次に転職を検討するタイミングでも、裁量と場所の2軸は変わらず優先し続けるつもりだ。フルリモートかつ裁量を重視した転職の探し方・進め方については、別の記事で具体的にまとめている。